SDGsのミライを描け!人新世を生き抜く想像力
続々と受付に進む参加者のみなさん、今日は市外(県内)からも多くの方が足を運んでくださっています。
「人新世の資本論読みました!」「立ち見でも構わないので絶対参加したいです!」
「SDGsを疑え!という視点に疑問と興味深々です。ミライノ+さんらしい問題提起ですね!」
平日の夕方にも関らず100人を超える方々が(東広島芸術文化ホール)くららを埋め尽くします。
その熱い視線を一身に受ける講師の方は…今、話題騒然『人新世の「資本論」』の著者でNHK Eテレ100分de名著「資本論」の指南役としてもお馴染みの経済思想家・斎藤幸平さんです!
「SDGsを単なるお題目や言い訳にせずしっかりと実現することで、より良い未来を将来の世代に向けて作っていく!そのために市民として何ができるのか、一緒に考えてみたいと思います。」
期待で胸が高まりますね、それでは早速始めましょう!
《コロナ禍は緊急ブレーキ》
マスク、3密回避、テレワーク…当たり前の世界が崩壊し、生活が一変した1年でした。これからの社会がどんな姿に変わっていくのか、私たち自身も考える必要があります。
『ワクチンができた!これで元に戻れる!』そう考えるのはあまりにも愚かではないでしょうか。たくさん作って、たくさん消費して、遠くから運んできて売りさばいて…そんな消費主義ともグローバル資本主義とも言われる社会の在り方を反省しなければ、同じ過ちを繰り返すことになります。
しかも問題はコロナ禍だけではありません、もっと深刻なのは気候変動です!コロナ禍は、これまで見失われてきたものを考え直すチャンスですが、これを逃すと中長期的には深刻な影響が現れます。
《別の道を大胆に模索する》
コロナ禍(2020年)においても二酸化炭素の排出量は▲7%です。2030年で▲50%/2050年にゼロを本気で目指すのであれば、小さな取組だけでは足りません。もっと別の道を大胆に求めることが不可欠です。SDGsの理念を否定したり悪く言ったりしているのではありません。では、なぜ批判するのか。そこに大胆な行動が伴っていないからです!
石炭火力発電の廃止や脱ガソリン・地産地消を求めたり、署名活動をしたり、政治家に訴えたり・自分が政治家に立候補したり…そうした大胆なアクションが必要なときに単に消費者としての行動で満足し、その落差を見失ってしまうことは大変危険なことです。
SDGsに配慮していることを示すラベル、洋服のリサイクル・途上国への洋服支援…身の回りには、これまでどおりの消費に安心感(これをアヘンに例えています)を与えてくれる企業広告が溢れています。
しかし、ここで気づかなければいけないのは、もはやそうした商品の消費そのものを止めることなのです。
我々もなかなかそこに踏み込めないし、失う怖さも当然あります。しかしその厳しい現実を直視することなしに、議論を深めることはできないのです。
《もう一つのアヘン、それは新技術》
もう一つの大きな流れとして、産業政策として新技術を開発することで、脱炭素と経済成長を両立させる動きがあります。緑の資本主義(グリーン・ニューディール)と呼ばれているものです。電気自動車(EV)、再生エネルギー、水素飛行機、ジオエンジニアリング…大きな市場が広がっていると言われていますが、本当にうまくいくのでしょうか。
ここではリチウム電池に欠かせないレアメタルを一例に話が進み…。
リチウムは乾燥地帯の地下水に(単位水量当たりわずかに)含まれる物質です。採掘企業1社だけでも1,700リットル/秒という大量の地下水をくみ上げ、それを蒸発させて製造しています。元々乾燥している地域でこうしたことが行われることで、先住民の飲み水やフラミンゴの減少といった様々なひずみが生じています。
先進国がEVを作る、環境対策にもなるし雇用も生まれる!しかしその一方で、その厳しいコストが途上国へと押し付けられているのです。
『木を植える』自然を増やす極めて単純な対策が実行されないところに、資本主義の非合理性があります。
《脱成長へ、想像力の貧困化を乗り越える》
「あなたたちが科学に耳を傾けないのは、これまでの暮らし方を続けられる解決策しか興味がないからです。そんな答えはもうありません。まだ間に合う時に行動しなかったから。」(環境活動家グレタ・トゥーンベリ)
すでに取り戻せない30年が過ぎた今、大転換に迫られた私たちはこれまでとは全く別の社会や生活を思い描いていかなければなりませんが、技術によってその想像力は狭まっています。
しかし、そのような状況においても若い世代が「システムチェンジ」を求めて声を上げ始めています、そう気候正義です!
何が正義なのか、平等とは、自由とは、公正とは…残念ながら科学技術はそれに「答え」を示してはくれません。だからこれからの社会では思想や哲学が重要なのです!
経済成長に代わるwell-beingとは何か、消費へのプレッシャーから解放される新しい快楽主義とは何か、<コモン>競争からシェアへ…これらに答えを出す新しい価値観をもった世代がリーダーになれば世界は変わります。でもせっかくなら今から変わりませんか、少しでもアクションを起こしてポジティブな未来をみんなで創っていきましょう!!
《質疑応答》
この日は飛沫防止対策として、当日会場でTwitterから質問を受け付けるという初の試みに挑戦しました。
#ミライノに質問
どの質問を選ぶか、中高生も来ているので分かりやすく嚙み砕くか、そうした時に質問の主旨が変わらないか…代読(私)する頭の中は軽いパニックです。
Q NPOは企業のように利潤の追求を目的とはしていませんが”やりがい”を盾にした長時間労働、休日出勤などが実際には起こっています。アソシエーションされた協同社会が実現されたとしても、こうした問題が解決できるのか疑問なのですが…
A 全体が競争型の社会において自分たちだけが非競争型になるのは無理です。NPOの活動はとても大切です。だから大きなシステムごと変えていく必要がありますし、研究者としてはそこの理論を提示していきたいと考えています(明らかに富を溜め込んでいる大企業への課税強化と再分配等)。
Q SDGsの目指す方向性は必ずしも全否定できないと考えます。「脱成長」の「世界」をベースとしたSDGsならば大賛成です。
A システムチェンジを求めているというコアの部分では一致しているが、一方で薄められた結果としての日本における使われ方は反省が必要です。
Q 二酸化炭素が地球温暖化の原因であるという科学的証拠の信頼性は確かなのでしょうか。
A (私自身は気候変動の専門家(科学者)ではありませんが)IPCCのレポートは、この分野の科学者が集まって調査・議論・検証等を繰り返して出来ているものなので疑いの余地はありません。
Q 「脱炭素」「カーボンニュートラル」とのトレードオフとして推進される原子力についてどうお考えになりますか。
A (例として)EVに乗るのに電気がいるから原子力に投資する、決して我々の幸せのためではなく、商品を売るためなのです。だからまずは全体の電力需要を削減することが大切ですし、そうすることで再生可能エネルギーが利用できる余地が広がっていきます。
Q SDGsの実現に人口減少は効果的だと考えますがいかがですか。
A 人口減少が悪だというと(人口の多い、例えば)アフリカが悪だということになりますがそれは嘘で、悪いのは(人口が減少している)先進国です。人口ではなく富が非常に歪んだ状態で使われていることが問題です。
Q 貨幣経済ではモノやサービスの価値が「人気投票」のように決まっていきますが、それが好ましくないとしたら物価統制のように価格が決まるのか。
A マーケットを完全に否定しているわけではありません。洋服がいい例ですが、バブルの頃に比べて売り上げは変わっていないのに点数は2倍に増えています。今これを半分にしても服に困ることはありません。まずそれを実行し、その間に次の経済システムを考えるのが現実的だと思います。
Q ベーシックインカムについての考えを教えてください。
A 3つ目のアヘンですね。結局全部貨幣がアヘンなわけです。お金を配れば解決する、そんな想像力の貧しい話はないですよね。お金が力を持ちすぎている社会を変えていくことが大切です。
「大胆なアクションが求められる時代に、SDGsがアリバイづくりになっていませんか」
この問いに市民、そして国民の一人として、<コモン>で仲間と連携しながら答えを模索していきます。
斎藤先生、未来への想像力を掻き立てる熱いお話、本当にありがとうございました!