【円陣プレイヤー紹介記事】 円陣プレーヤー 原 直誉さん
【円陣プレーヤー紹介記事】円陣プレーヤー 原 直誉さん
挫折を越え、「学問」と「地域」をつなぐ架け橋に
―研究者と地域住民が対等に酌み交わす“対話の場”を東広島に―
社会課題を地域一丸となって解決する取り組み「円陣」。2024年度第2期の円陣プレーヤー、原直誉(はらなおたか)さんの挑戦を紹介します。
「好き」を追求した先にあった孤独と場所
原さんは現在、福岡大学商学部シチズンサイエンス研究センターの研究員として活躍中。その研究対象は、なんと「ミミズ」です。
「私は単なるミミズ好きで、ミミズのためなら学問分野の垣根を気にせず研究してきました。しかし、そのスタイルは大学院ではあまり理解されませんでした…」
さらに原さんは、研究費を得るための申請書類作成に日々追われ、気づけばフィールドワークよりも書類作業のほうが多くなったそうで、「研究を楽しめなくなってしまったんです」と当時を振り返ります。
そんな苦しい時期の原さんを救ったのが、『学問バーKisi』という研究者が自分の好きなことを自由に話せる場所でした。
「研究者が1日バーテンダーになり、お客さんと対話を楽しむんです。そこでは難しい最先端の研究より、マニアックだけど誰でも楽しめる『面白い話』が求められました。この空間は、私の研究スタイルを初めて認めてくれました。」
原さんは、この『学問バー』スタイルを全国に広げたい、そう強く思うようになったそうです。
学生支援の挫折から、新たな事業への転換
実は原さんが円陣で最初に取り組んだのは、東広島市の学生支援でした。原さんは地元である淡路島の高校に通学しているときに、「地域を盛り上げていきたい!」「この地域で自分も幸せになりながら一緒に暮らしていきたい」と考える学生は少ないのではないかと疑問を感じたことがあるそうです。また、原さん自身が大学生活で苦労した経験から、「学生の暮らしを支えたい」と考えたのです。
ところが、ヒアリングに応じた学生から返ってきたのは「ヒアリングをして何になるのか?学生の声を本当に活かせるのか?」という予想外に厳しい言葉。その後、企画したワークショップに参加したのは、わずか2、3人…。
学生のために活動しているつもりが、かえって学生を困らせる結果になったことで、一度心が折れてしまいました。
しかし、原さんの脳裏には、かつての大学院での苦悩と、それを救ってくれた学問バーの存在が浮かんでいました。
「研究で行き詰ったときに、関係者以外で私の研究の話を面白がってくれる人たちの存在があったから、今私は研究を続けることができている。
東広島にもこの文化を波及させることが、私ができる恩返しだと思いました。」
そう語ってくれた原さんは、自分自身が救われたように、新たな研究者の居場所を東広島につくることを決意しました。
研究者と地域住民の間にある「壁」を壊したい
2025年2月、原さんは『学術交流フェス』をミライノ⁺で開催しました。
研究者と市民が一緒にお酒を楽しみながら、気軽にコミュニケーションを楽しめる場です。
フェスの会場は、学術をテーマにしたポスターアートや花々で彩られ、地元の食べ物や飲み物も用意されました。随所に原さんのこだわりが感じられました。
普段、研究者と関わる機会のない市民の皆さんが、専門知識を要する研究の話を楽しみながら聞けるのだろうかと私は取材をしながら考えていました。
しかし、それは私の杞憂でした。
「地域住民は研究者を『自分たちとは違う次元の人』だと思い込み、研究者もまた『市民には理解されない』と諦めがちです。でも、それは大きな誤解。私はその壁を壊したいんです!」
そう語った原さんの言葉、そして当日、研究のポスターを囲みながら、研究者と地域の人たちがお酒を手に楽しそうに話す皆さんの表情から、原さんの目指す研究者と地域の人が自由に対話や創作を楽しむ学術研究拠点の姿が思い描けました。
東広島発「学問を楽しむ文化」を全国へ
学術交流フェスは40人をゆうに超える予想以上の盛況で終了。
地域の方からは『こんな面白い研究が身近にあったのか』と喜んでもらえ、研究者からも『市民の関心の高さに驚いた』『研究を続ける勇気をもらった』との声が届いたそうです
さらに原さんは事業仲間からの紹介で「喫茶ぱいぷ」でも3月にイベントを開催。今後も、地域のさまざまなスペースと連携し、「学問を楽しむ」という文化を根付かせることを目標にしています。
「私が目指しているのは、一時的なブームではありません。研究者や市民が自然に集まり、自由に語り合える文化を東広島に根付かせたいんです」
原さんが描く10年後の東広島
原さんが描く理想の未来は明確です。
資金やモチベーションを多様な場所で得られ、自由に研究を楽しめる環境が生まれること
学問を楽しむことが娯楽として広く認知されること
東広島市が、新たな学問文化の発祥地として全国に知られること
「学問バーは、研究者と地域の皆さんが主役です。最終的には私がいなくても、自発的に人が集まり、自然に対話が広がっていく――そんな文化を創りたいですね」
自分はあくまでも「火付け役」。笑いながら語る原さんは、終始「共創」「対話」「文化」というキーワードを強調していました。
編集後記
原さん、貴重なお話をありがとうございました。子どもの頃から誰しもが持ち合わせている好奇心や探求心が、東広島という地域に住む、学生や研究者、地域社会の皆さんとの新たなチャレンジや交流を深め、繋がるきっかけなるのだと感じました。また、挫折を乗り越え、「好き」を地域のために活かす原さんの姿勢に強く共感し、東広島から全国に広がる「学問文化」の誕生を楽しみにしています。
(取材:原さんファン第288号 田中啓太)